かうひいや3番地

部屋が涼しかったので
薄手のコートを手に外へ出た
空は晴れて暖かい
半袖の人もいるくらいだった
家へ戻るのも面倒だったので
出番のなさそうなコートは抱えていくことにした

吉祥寺へ着くと なぜか、猫祭り
そんなお祭りいつの間に‥戸惑いながらも、古本市で猫の本を一冊買った
『猫に時間の流れる』
保坂和志さんの本を読むのは久しぶりだった
本を抱えて 向かいたい場所

かうひいや3番地
吉祥寺での営業は今日まで
明日は、松本へお引越し

カラカラ‥と扉を開けて
真空管アンプを通したやわらかい音
珈琲とチーズケーキを頼んで
買ったばかりの本を開く
今日は本を読みたかった
あれこれ考えてしまわないように
とにかくページをめくり、意識を文字へ
そのうちに夢中になり
喫茶店らしい いい時間が流れる

それでもやはり
じんわりとこみ上げる瞬間はやってきて
それは スピーカーから聴こえてくる好きなリズムがきっかけで
優しい女性の歌声に耳を傾ける
本は開いたままだけど 読んでいる格好だけ
文字を眺めながら音を聴いて
ここで過ごした時間を思い出す

常連さんらしい男性が安藤さんと握手を交わす
「バイクに乗って行きますから!」
「えー、50ccで?それはたのしそうだなぁ」
二人の会話を微笑みながら聞いた

松本へ行く楽しみができたと思う
温泉もあるし、泊りがけで行こう
ギャラリースペースもできると聞いた
いつか展覧会を実現できるように絵を描きためよう
目標もできた
だけど、淋しい
ぼんやりできる好きな場所だった
エリック・ドルフィを最初に聴いた店
好きな音楽がよくかかり、教えてもらって手帳にメモした
喫茶店の仕事に疲れ、気持ちを切りかえに向かった喫茶店
静かにきこえる振り子時計の音
それから 安藤さん
安藤さんと交わす一言二言にたくさん元気をもらった




買ったばかりの本は、一日で読み終えた
いつの間にか始まっていて
いつの間にか終わっている
始まりも終わりもない
ずっと続いていて
これからも続いてゆきそうな文章
昨日も今日も明日も続いているんだ
その中で、時折はっとする
焦点が合うような、一気に色づく瞬間を見つける


道をずっと、ゆっくり歩いた
















[PR]
by shokanshu | 2017-10-09 21:03